テストステロンやエストロゲンが小児期にいったん消えて、身体成熟期にふたたび出現したとき、男女で異なる反応を起こすように準備をしておく。
いずれにしても、脳におけるホルモンは控えめでも何でもなく、その影響は圧倒的かつ全面的だ。 たとえば性ホルモンは、脳細胞や樹状突起の成長と消失、神経伝達物質の活性化と沈静化にかかわっているし、細胞核内の遺伝子スイッチを入れたり切ったりする。
オレゴン地域霊長類研究センターのS・Bはそれを一言でまとめた。 「要するに、ホルモンは神経細胞の働きを変えるのよ」Bはラットを使った実験で、エストロゲンとドーパミンがまさにそういう感じで相互作用していることを確かめた。

ドーパミンは強力かつ活発な神経伝達物質だ。 前にも述べたように、コカインやアンフェタミンなど依存性のある薬物は、ほとんどがドーパミンを増やす効果をもたらす。
だから薬物をやると世界がバラ色に見えるのである。 ラットはドーパミンを獲得するためなら、数々の障害物を乗りこえていく。
反対にパーキンソン病はドーパミンが枯渇する病気で、筋肉がこわばって動かなくなり、運動能力が発揮できなくなる。 Bの実験では、運動を始めるときに働く大脳基底核で、エストロゲンがドーパミンを増やすことがわかった。
脳内の代表的な抑制物質であるGABAをエストロゲンが遮断するので、神経細胞がドーパミンを盛んに出すのだという。 大脳基底核の一部を切りとって試験管に入れ、そこにエストロゲンを少量落とすだけでも、ドーパミン量は増えた。
少なくともラットに関しては、生体内で同じことが起こっている。 発情期のピークでエストロゲンがたくさん出ているとき、メスのラットは平均台をうまく乗りこなすのだ。
さらに重要なのは、交尾のタイミングをつかむのがうまくなることだった。 野生のラットでは、交尾後のメスがしばらくオスから離れることがある。
妊娠に向けて、ホルモンや神経伝達物質の複雑な仕組みが効率よく働く時間を確保するためだ。 オスとのあいだに大きな障害物を置いて交尾させた実験によると、オスのもとに行き、ことをすませてその場を離れ、身体を休ませるタイミングがよければ、妊娠の可能性は90パーセントまで上昇するという。
そしてBは、メスは体内のエストロゲンとドーパミンが多いときほど、状況の変化に敏感で、交尾のタイミングを正しくとらえられることを確かめた。

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